二重国籍を認めない日本と認めるアメリカ
アメリカ人の親と日本人の親を持ち、日本で生まれた子どもや、日本人の両親を持ち、アメリカで生まれた子どもは、出生と同時にアメリカと日本の二重国籍が与えられます。(ただし後者の場合は、出生から3カ月以内に「国籍留保」の届出をする必要があります。)
今回は、アメリカ人の父を持つことで二重国籍であった我が子達が、2,350ドルの費用を負担し、約1年の手続きを経て、米国籍を正式に放棄するまでのお話です。
日本では22歳になる前に国籍選択
日本は重国籍を認めていません。出生と同時に二重国籍になった人で、日本国籍を留保したい人は、国籍法により、22歳に達する前までに「国籍選択届」を日本の市区町村役場や外国の日本大使館・領事館に提出することが定められています。法務省の公式サイトには、「期限までに選択をしない場合には,日本の国籍を失うことがありますので,注意してください」と明記されています。
うちの子供たちは日本で生まれ、日本の学校に行き、苗字がカタカナである以外、本人たちの意識も周りの受け止め方も普通の日本人ですので、当然日本国籍を留保することを決めました。そして市町村役場に行き、「国籍選択届」を昨年提出しました。
「国籍選択届」の用紙は市区町村役場にあり、次の事柄を記入します。
・氏名
・住所
・本籍
・有する外国籍
・署名
・押印
とても簡単な手続きです。しかも無料です。
そして提出後1週間ほどで、戸籍に反映されます。後日戸籍謄本をとったところ、子供達の欄には「国籍選択の宣言日 平成〇年〇月〇日」と記載されていました。
アメリカは重国籍主義
日本とは異なり、アメリカは二重国籍を認めています。我が子達のように、たとえ二重国籍者が他国の国籍を選択したとしても、それだけでは米国籍に何ら影響を与えません。
二重国籍のままの人もいる?
日本の国籍法では、二重国籍者で日本国籍を保持したい場合は、「国籍選択届」を提出した時点で国籍の選択義務は履行したことになります。しかし、日本側で国籍選択をしたことが外国籍の留保に影響を与えない米国などの国籍を有する場合は,「日本での選択宣言後,当該外国国籍の離脱に努めなければならない」とされています。
「努めなければならない」となっていますが、米国籍を離脱するには、2,350ドルの費用負担があります。手続きも簡単ではありません。そのため、日本国籍の選択宣言をした後、米国籍の正式離脱をしたくても、なかなか果たせずにいる人が、少なからずいるかもしれません。あるいは、日本側での手続きが完了した時点で、米国籍は自動的に喪失されると思い込んでいる人もいるかもしれません。実際我が子が市区町村役場で「国籍選択届」を提出した際も、アメリカ側での離脱手続きについて強く指示されることはありませんでした。
米国籍のデメリット
米国籍はメリットばかりとは限らない
子供が生まれた時は、二重国籍は得なことだと思っていました。子供達が将来アメリカに住める選択肢があるのは、良いことだと考えていたからです。
しかし1年半ほど前のある出来事で、米国籍のデメリットについて考えるようになりました。それは子ども達が契約者となって、とある会社の生命保険に加入しようとしたときのことです。生命保険の申込用紙に、
□私は米国市民ではありません。
というような記載があり、申込時にチェックを入れるようになっていたのです。
確認したところ、米国籍保持者は(我が子のような二重国籍者も含め)この保険に加入できないということが分かりました。今まで普通の日本人として生活してきたのに、初めて外国籍を持つことの不便さに遭遇したのでした。
理解に苦しんだ私は色々調べて、どうやらFATCAという米国の新しい法律が関係しているようだと気付きました。
FATCAとは?
FATCAとは「外国口座税務コンプライアンス法」のことで、2010年にアメリカで成立しました。米国外に住む納税義務者が、米国外の金融口座等を利用して租税回避をすることを防ぐ目的で、米国が、米国外の金融機関に対し、顧客が米国納税義務者であるかを確認することを求めているものです。FATCAを受けて、日本の銀行や生命保険会社は、2014年から新規の顧客に対し、米国納税義務者であるかどうかの確認を始めました。
要するに、アメリカ国外に住むお金持ちのアメリカ人は、資産がアメリカ国外にあっても、しっかりアメリカに税金を納めて下さいね・・・という法律のようです。富裕層ではない我が家はアメリカに納税義務はないのですが、それでも生命保険に加入できないとか、新たに保険契約をしたり口座を開設する際に余分な書類を提出しなければならないとか、個人情報が逐一アメリカに送られるとかは、ちょっと抵抗を感じました。
米国IRSへの確定申告義務
FATCAのことに加えて、アメリカIRS(国税局)への確定申告義務についても心配になりました。アメリカ人は、アメリカ国外に住んでいる人も含め、たとえ納税義務がなくてもIRSへ毎年確定申告をする義務があります。夫も申告書を毎年IRSに提出しています。
日本では、サラリーマンなら会社が源泉徴収してくれますね。しかしアメリカでは、確定申告は自分でするのが基本です。しかもかなりややこしいのです。私もIRSのサイトで英語の説明をちょっと読んでみましたが、分からない~!難しい~!
我が子達は今は学生なので申告義務はありませんが、やがて就職した際に、IRSに確定申告をしなければならなくなります。彼らの貧弱な英語力でIRSのページに書いてあることを理解できるとは、到底思えません。夫が生きている間は確定申告の度に手伝ってもらえるかもしれないけれど、その後が不安です。子供達が一人で確定申告ができるようになるとは、全く思えませんでした。
子供達の将来を考えれば、学生のうちに米国籍を離脱した方がいいんじゃないか?
そうね~。日本の法律でも「外国籍離脱の努力をせよ」と言われているのだから、今がチャンスかもね。そうしよう!!
米国籍離脱の手続き
費用は1人、2,350ドル
米国籍放棄の手続きをするには、証明書発行および申請料として、1人2,350ドルかかります。当時のレートで計算すると、約25万円。2人で50万円。痛い出費です。米国籍離脱の手続きに踏み切るには、費用負担の覚悟がなければなりません。
アメリカ大使館で2回面接する
アメリカ大使館でうちの子供たちが手続きをした際の流れは、次のとおりです。検討中の方の参考になればと思い、書き残しておきます。領事館でも手続きができるようです。
1.アメリカ大使館HPの入力フォームより必要事項を記入して、初回の面接希望日を伝える。
(面接は火曜日・木曜日の午後2時~のみ。面接希望日は第3希望まで記入する)
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2.アメリカ大使館よりメールが届く。メールで面接日の日程調整。
(当初約1ヶ月後の日にちを希望日として伝えておいたのですが、直近で可能なのは4ヶ月先でした!)
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3.アメリカ大使館で初回面接。
(係の方が、子供達に「二重国籍のままでいることも可能」など、説明してくれたそうです。次回面接までによく読むようにと、英語の書類を渡されました。1ヶ月後に、大使館へメールをするように言われました。)
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4.1ヶ月後に2回目面接のために大使館へメール。2回目面接の希望日を伝える。
(この1ヶ月は、米国籍放棄を本当に希望するのかを熟考するための期間らしいです。渡された書類には、国籍放棄をすると再び米国籍は取得できないなど、法律的なことが細かく記載されていました。)
↓
5.アメリカ大使館よりメール届く。メールで2回目面接日の日程調整。
(2回目面接の希望日として、約3ヶ月後の日にちをメールに書いておいたのですが、直近で可能な日は5ヶ月先でした!)
↓
6.アメリカ大使館で2回目面接。子ども達が国籍離脱について宣誓、署名。
(メールで送られていた申請書類をプリントアウトし、必要事項を記入した上で持参、大使館員の目前で署名しました。その後、アメリカのパスポートを使えないように処理されました。出生時に大使館で発行された Consular Report of Birth Abroad(出生証明書)を渡しました。2,350ドル×2人分の費用を支払いました。我が家は米ドル現金で払いましたが、クレジットカードも使えます。)
↓
7.大使館からワシントンDCの国務省へ、署名した書類等が送付される。
↓
8.約2ヶ月後に米国離脱の証明書が届く。完了!
(渡してあった Consular Report of Birth Abroad(出生証明書)が同封されていて、裏面には国籍離脱をした旨が書かれていました。)
★米国籍離脱手続きの2回の面接は、別室で何か難しい話をするのかと思っていたら、すべて窓口での立ち話で、簡単なものでした。日本語も使ってくれたので、子供達は困らなかったようです。国籍放棄は親に強制されたものではなく、本人の意志によってなされなければならないため、同行していた私に「お母さんは離れていてください」と注意を受けました。
米国籍放棄手続きに約1年かかった理由
国籍放棄のために最初にアメリカ大使館サイトのフォームで申し込みをしてから、すべての手続きが完了するまで、約1年かかりました。なぜこんなに手続きに長くかかるかというと、どうやら米国籍離脱の希望者が多く、窓口が混みあっているからのようです。これは日本に限ったことでなく、世界のあちこちで起こっているようです。
2009年までは1年に3桁(約300~700人)だった米国籍離脱者は、2010年から4桁になり、以後増え続け、2016年には約5,400人がアメリカ国籍を放棄したそうです。我が家もそのブームに乗った感じですかね(笑) FATCAが成立したのが2010年ですので、米国籍離脱者が増え続けているおもな理由は、FATCAの影響のようです。
国籍は放棄したら元に戻せないので、人生の大きな選択です。米国籍離脱手続きを検討中の方の参考になれば嬉しいです。
コメント
米国離脱の経験者のお話はとても貴重です!ありがとうございました。
また色々教えてください
よろしくお願いします
とても参考になりました。
質問なんですが、離脱後、渡米の際は
ESTAはとれないので、領事館でvisaを取得しなければいけなくなるのですか?
山本様
こんにちは。
離脱後、渡米の際は普通の日本人と同じようにESTAをとれます。
昨年夏、子ども達と私は、ESTAをとって渡米しました。
心配ないですよ!
ありがとうございます!
アメリカ領事館の職員が、離脱後はESTAはとれないというので、心配しておりました。
いつも、色々教えてくださいましてありがとうございます。
山本様
領事館の職員の方は、ESTAに詳しくないのかもしれませんね。
私は昨年夏ESTAを申請した際、子どもが過去に米国籍を持っていた関係で記入の仕方が分からない部分があり、大使館に電話をしたのですが教えてもらえませんでした。
ESTA公式サイト(https://esta.cbp.dhs.gov/esta/application.html?execution=e2s1)には問い合わせ先も掲載されています。私は結局「CBP情報センター」というところに英語でメールをしたのですが、すぐに回答が来ました。
今後もし困ることがあったら、領事館よりもそちらの方が頼りになると思います!
初めてまして。とても参考になりました。
我が家も、息子が二重国籍で、学生のうちに、国籍離脱を考えています。
提出する書類の記載は、難しい場合弁護士に依頼するしか手はないのでしょうか?
窓口で教えていただけるようなことないのでしょうか?
またわかることがあれば教えていただけたら有難いです。
山本様
当サイトへの訪問、そしてコメントをありがとうございます。
書類はすべて英語で書かれていますが、弁護士さんに相談するほど難しくないです。
英語が読めれば大丈夫ですよ。
(私は夫にまかせてしまいましたが・・・)
頑張ってください!
こんにちは。
大変勉強になりました。
友人に二重国籍の人がいたのですが、なんだかカッコ良くてうらやましく思っていました。
しかし、米国籍離脱がそれほど手間と費用がかかるものだとは全く知らず、驚きました。
手数料にしても高すぎですよね。離脱商法でしょうか(笑)
また、何らかの登録をした際に「私は米国市民ではありません。」のチェックがあり、その存在は知っていたのですが、何のためにあるのか不思議に思っていました。
なるほど、そのような理由があったのですね。ではでは。
Piyotarou様
当サイトへの訪問&コメントをどうもありがとうございます!
私自身も今回のことを通して、驚き、勉強になりました。
国籍離脱手続きは大変でしたが、完了して、今はほっとしています。
よろしかったらまた遊びにいらしてくださいませ!
とっこより